03


入室の際、礼儀として頭を下げたその人物は顔を上げるなり悲壮な顔をした。

何なんだ一体?人の顔見るなり失礼な奴だな。

斬りかかってくるわけでもなく、目の前のへこんだ様子の青年に政宗は眉を寄せた。

「殿じゃない…」

そして、その口から漏れた呟きに政宗は反応した。

「Hey、アンタの探し人は銀髪の奴か?」

そう聞けば青年はガバリと顔を上げて政宗に詰め寄った。

「うちの殿を御存じなのですか!?」

「おいてめぇ、政宗様から離れろ」

その近さに小十郎が青年を政宗から引き離す。

「Thanks、小十郎」

「あ、つい失礼致しました」

殿を追って蔵に入ったら、わけの分からない事になっていて青年は混乱していた。

「政宗様、銀髪の奴とは?」

聞いた事も見たこともない人物に小十郎は首を傾げる。

「ahー」

どう説明すべきかと政宗が考えを巡らせていると、それを遮るようにスパンッと勢いよく奥の襖が開いた。

「よっ、小十郎。お前もこっちに来たのか」

襖を開けたのはもちろん藤次郎だ。

「―っ、殿!」

その姿に青年は泣きそうな表情で声を上げた。

「小十郎だと…?」

「………」

驚く二人の視線を集めたまま藤次郎は己の家臣の前に片膝をつく。

「なぁに情けない面してんだお前は」

「殿…」

政宗と髪色以外同じ容姿の藤次郎を初めて目にした小十郎は驚きで止まっていた思考を瞬時に切り換えると政宗を見た。

「政宗様、ご説明頂けますね?」

「…ん、おぅ」

政宗は政宗で、藤次郎の前にいる情けない姿の優男が小十郎だと知って少なからずショックを受けていた。

アレが小十郎?有り得ねぇ…。

つい、自分の家臣と藤次郎の家臣を比べるようにちらちらと見てしまった。

「政宗様?」

その行動に訝しげに小十郎の眉間に皺がよる。

「…藤」

どこか力なく政宗は藤次郎の名を呼んだ。

「ちょっと待ってくれ」

その声に藤次郎はそう返し、何だか良く解らないと困った顔をした己の家臣に笑顔を見せた。

「良く来たな小十郎。やっぱお前がいなきゃつまんねぇぜ」

ポンポンと小十郎の肩を軽く叩き、藤次郎は口端を愉しげに吊り上げた。

「殿…、正直に喜べないのは何故でしょうか。何やら嫌な予感がします」

長年の付き合いから、藤次郎のこの笑顔は危険だと小十郎の勘が告げていた。

「さ、説明といこうぜ政宗」

政宗の隣に強面の小十郎。藤次郎の隣に優男風の小十郎を座らせ、二組の伊達主従が向き合う。

先に政宗が、信じられねぇかも知れないが今から話すことは事実だ。と前置きをしてから奇妙な話し合いは始まった。

「まず、小十郎」

政宗がそう呼び掛けると二人の人物が反応する。

これではややこしいな、と同時に思った政宗と藤次郎は視線を交わし合う。

藤次郎は一つ頷き、隣に座る小十郎の肩をポンと軽く叩き言った。

「今からお前は景綱だ。で、そっちの奴を小十郎と呼ぶ」

いいな?

視線を投げ掛けられ、返答に困った小十郎は隣に座る政宗を見た。

「OK.それで行こう」

いきなり景綱だの小十郎だの呼び方について言われた景綱は訝しげに眉を寄せ、藤次郎に疑惑の眼差しを向ける。

「殿、一体今回は何をしでかしたのですか?」

「人聞きの悪いことを言うな。俺は何もしてねぇ」

ジト目で見てくる景綱の視線を振りきり、政宗に先を促す。

「もう薄々分かってるだろうが俺もソイツも正真正銘、伊達 政宗だ。それでお前らも形は違うが正真正銘、片倉 小十郎だ。You see?」

「…政宗様を疑う訳ではありませぬが証拠は?それに何故この様な事に」

小十郎の問いに藤次郎が答える。

「残念ながら証拠はねぇな。原因は推測するに昨夜の不可思議な現象と、今朝の幽霊騒ぎにあると思うぜ。俺の方でも同じ事があった」

藤次郎は小十郎を見据え、瞳を細める。

コイツ、俺を疑ってるな。おもしれぇ。

藤次郎は不快に思うでもなく、ゆるりと口端を吊り上げた。



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